乳がん小辞典

■非浸潤がん(ひしんじゅんがん:non-invasive carcinoma)■

非浸潤がんとは、乳管内や小葉内にできたがん細胞が乳管や小葉の膜の中に留まっているものをいいます。ほかの組織に広がっていないため、理論的には乳腺を全切除することにより完治します。乳管や小葉の膜を破り、周りの組織に広がったものを浸潤がん、乳頭にできた場合をパジェット病といいます。

しこりがなく、乳頭分泌のみで発見された乳がんは、非浸潤がんであることが多く、マンモグラフィ(乳房X線)で発見される微細な石灰化も、非浸潤がんの可能性があります。超早期の状態といえますが、乳管内を這うように広がりやすいため、乳房全切除術を行う場合が多いです。



■浸潤がん(しんじゅんがん:invasive carcinoma)■

乳がんは、浸潤がん、非浸潤がん、パジェット病と大きく三つに分けられます。そのうち浸潤がんとは、乳管内や小葉内にできたがん細胞が乳管や小葉の膜を破り、周りの組織に広がった状態をいいます。しこりなどの自覚症状があって発見されるものの多くがこのタイプで、血液やリンパ液に乗って遠隔転移を起こす可能性があります。逆に乳管内や小葉内に留まっているものを非浸潤がん、乳頭にできた場合をパジェット病といいます。

浸潤がんは組織のタイプによって通常型と特殊型に分類され、さらに通常型は細胞の分化度(正常細胞との違いの度合い)により、乳頭腺管がん(高分化)、充実腺管がん(中分化)、硬がん(低分化)に分類されます。



■進行乳がん(しんこうにゅうがん:advanced breast cancer)■

がんの進行度は一般に病期あるいはステージということばで表され、乳がんの場合も病期分類があります。進行乳がんは最初の発見の段階でステージIIIB とステージIV、そして炎症性乳がんを指します。

ステージIIIBはしこりの大きさを問わず、がんが胸骨の脇にあるリンパ節(胸骨傍リンパ節)や乳房の周囲や皮膚まで広がっているものを指します。

ステージIVは鎖骨上リンパ節や骨、肺・肝臓などの臓器、乳房から離れたほかの場所に転移がみられる場合です。進行乳がんの予後はよくないとされていますが、長期間の効果が期待できる新しい治療を受けることができる場合もあるので、医師とよく相談することがすすめられます。



■再発(さいはつ)■

再発とは、一度治療した病気が再び起こることです。がんの再発は、治療後がん細胞が残っている場合、それらが増殖して、数ヵ月から数年を経て再び活動的になることをいいます。乳がんの再発は、再発する部位(場所)によって、

(1)温存乳房や胸壁に起こる局所再発、

(2)わきの下のリンパ節に起こる領域再発、そして

(3)乳房から離れた器官や組織、例えば肺、骨、肝臓、脳に起こる遠隔(全身)再発(=転移)にわかれます。

(1)~(3)は治療法がそれぞれ異なります。再発の発見のため、がん患者は初回の治療以後、数年にわたる検査や診察が必要です。さらに患者自身が自身の身体の変化(体重、痛みなど)を観察することも重要といえるでしょう。



■穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)■

マンモグラフィや超音波検査などの画像診断で異常が疑われた場合、乳房のしこりに細い注射針を刺して、溜っている体液や細胞を吸引して採取し、がん細胞の有無を調べる検査です。

採取した細胞をプレパラートに吹き付けて、顕微鏡で調べます。針を刺すのでやや痛みを伴いますが、局所麻酔の必要はありません。しこりが小さいときは、エコーを見ながら行います。検査結果は「クラス」で表します。



■生検(せいけん)■

マンモグラフィーや超音波検査などの画像診断で異常が疑われた乳房のしこりや組織の一部、あるいはすべてをとってがん細胞がどうか診断することをいいます。しこりが触れやすい場合や嚢胞が疑われる場合は、穿刺吸引細胞診、また乳頭からの分泌物がある場合には、分泌物を採取して細胞診を行いますが、この場合にはしこりの細胞を採取することになり、外来で短時間に行われます。穿刺吸引細胞診や分泌物中の細胞診で診断が確定できなかった場合、さらに手術によってしこりの一部またはすべてを切除し調べますが、これを生検といいます。細胞診では、細胞がバラバラのまま取れてきますが、生検の場合にはまとまった組織の状態で採取でき、腫瘍の立体構造も推定できます。

生検には、太めの針をしこりに刺して組織の一部を採取する針生検と、メスで切開してしこりの組織を切り取る外科生検があり、外来または入院手術で行なわれます。組織診(組織学的診断法)ともいいますが、生検という場合には、手術前に確定診断をつける意味合いが、組織診という場合には、手術で摘出した組織の病理検査という意味合いがあるようです。



■リンパ節転移(りんぱせつてんい)■

がん細胞は、発生した部位から周囲の組織へ浸潤し、増殖し、リンパ液や血液の流れに乗っていく性質を持っています。リンパ節転移とは、がんがリンパ管を介して転移していくことで、リンパ節が硬く腫れてぐりぐりを作ります。乳がんの場合は、まず、多くは脇の下のリンパ節(腋窩リンパ節)に転移が見られます。乳管の中に発生したがん細胞が大きくなるにつれて、リンパ流に乗ってリンパ節へと移行し、そこに着床してリンパ節転移となります。リンパ節への転移の有無は、乳がんの性質、及びその後の経過を推測するうえで最も重要な情報(予後因子)の1つであり、術後の補助療法を決めるうえでも重要な判断材料となります。



■リンパ節郭清(りんぱせつかくせい)■

がんの周囲のリンパ節を取り除くことを言います。リンパ節は直径3~6ミリ程度のもので脂肪組織の中に埋まっていますが、がんが転移していても少量の場合には肉眼で見分けることは困難です。また、リンパ節をつなぐリンパ管には、流れていく途中のがん細胞が存在している可能性があるため、リンパ節を1個1 個拾うのではなく、脂肪組織ごと切除してがん細胞を確実に取り切ってしまおうという「郭清」という手段が必要となります。リンパ節郭清を行ったことによって起こりやすい症状(合併症といいます)として、腕のむくみ(リンパ浮腫)、神経障害によるしびれ感などがあります。



■AC療法(えーしーりょうほう)■

2つの抗がん剤を組み合わせて行う化学療法の名前で、その2つの薬、Adriamycin(アドリアマイシン/アドリアマイシンは一般名ドキソルビシンの別称)とCyclophosphamide(シクロフォスファミド/商品名エンドキサン)の頭文字を取ってこの名前がついています。

主に3週間に1回の点滴を4~6コース(クール、サイクルと言うこともあります)行います。点滴前の採血で白血球の減少などがあった場合にはその日は点滴はせずに、白血球数の回復を待って点滴を行うこともあります。その場合にはAC療法のスケジュールはずれていきます。副作用には吐き気、脱毛、口内炎、白血球減少、貧血、血小板減少、爪の変形・着色、生理不順、肝臓・腎臓・心臓の機能障害などがありますが、副作用の出方には個人差があります。



■脱毛(だつもう)■

抗がん剤は血液を通じて全身にいきわたり、細胞分裂が活発な細胞に作用するため、がん細胞だけでなく、体毛・口粘膜・骨髄などの正常細胞にも作用します。

抗がん剤治療による脱毛は、抗がん剤が毛根の毛母細胞に作用するので、脱毛が起こります。抗がん剤を使用して2~3週間で抜け始めますが、使用する抗がん剤の種類や 量・組み合わせなどによって、脱毛の程度は異なります。髪の脱毛は全体的であったり、部分的であったり、髪の毛以外の体毛が抜けることもあります。治療が終わると、1~2ヶ月で毛が生えはじめ、3~6ヶ月で ほとんど生え揃いますが、新しく生えてきた毛は前と比べて形や性質が違うこともあります。

放射線を照射した場合は、照射を受けた部位の皮膚が炎症をおこし、毛根にまで影響がおよび、照射した部位に脱毛がおきます。放射線治療を開始して2~3週間してから脱毛が始まります。放射線治療が終わって、皮膚の炎症がおさまると、正常な皮膚が復活して、毛根の準備が整い、治療終了後、2~3ヶ月で毛が生え始めます。



■放射線療法(ほうしゃせんりょうほう:radiation)■

高いエネルギーの放射線(X線、ガンマ線、電子線など)を使って、がん細胞の成長・増殖を阻止する治療法です。これらの放射線は目に見えず、当たっても痛くも熱くもありません。乳がんでは、がんの切除手術の後、主に温存療法後に乳房内の再発を防ぐために行います。そのほか、リンパ節転移、骨転移、脳転移、皮膚転移などに対しても行われます。通常、放射線療法は必要な総照射線量を計算し、毎日少しずつ照射していきます。



■三次元照射(さんじげんしょうしゃ)■

放射線療法の照射方法のひとつです。三次元的にさまざまな方向からがん病巣に放射線を照射し、集中的にがん病巣をねらい撃ちする方法です。がんのある場所にピンポイントで照射するため、通常の放射線療法では行えない大線量の照射が可能となり、効果的に治療が行えます。正常組織への放射線量は少ないため、正常組織へのダメージはたいへん少なくてすみます。



■ホルモン療法(内分泌療法)(ほるもんりょうほう(ないぶんぴりょうほう))■

手術後の治療法(術後補助療法)の1つです。手術で切除したものを調べた病理検査の結果、ホルモンレセプターのうちのエストロゲンレセプター(ER)が陽性と言われた患者さんが、主に対象となります。乳がんの発育を促すエストロゲンの働きを止めることによって、乳がん細胞が体の中で増えるのを阻止しようという方法です。

具体的な方法としては、飲み薬や注射などがあります。使用される薬にはいくつかの種類があり(抗エストロゲン剤、LH-RHアゴニスト製剤、アロマターゼ阻害剤、プロゲステロン製剤など)、どの薬が使われるかは病理検査の結果や、閉経前、閉経後などの状況の違いによって異なってきます。

ホルモン療法の特徴は、がん細胞を直接攻撃する抗がん剤治療(化学療法)よりは作用がマイルドですが、副作用が少なく、手術後に長期間の投与(2年~5 年程度)をすることによって、長く再発抑制効果が期待できるということです。しかし副作用が全くないわけではありません。ほてり・のぼせといった更年期障害に似た症状が多く現れます。血栓症なども糖尿病や高齢の患者さんでは、無視できない副作用です。



■抗エストロゲン剤(こうえすとろげんざい)■

ホルモン療法では、もっとも標準的でよく使われる薬です。エストロゲンレセプター(ER)が陽性の乳がんの場合、第一選択(最初に処方される薬)として使われることが多いです。エストロゲンが乳がん細胞の表面にあるレセプター(ER)に結合すると乳がん細胞が増殖しますが、抗エストロゲン剤は先回りして ERに結合してしまい、エストロゲンが結合できないようにしてしまいます。そうなるとがん細胞の遺伝子が働かなくなって増殖が抑えられます。抗エストロゲン剤は、閉経状況を問わずに効果がありますが、閉経後のほうがより効果が大きいといわれています。

大きく分けると2種類あり、タモキシフェン(商品名は「ノルバデックス」など)、トレミフェン(商品名は「フェアストン」)です。タモキシフェンは閉経前、閉経後いずれにも処方され、トレミフェンは閉経後のみ処方されます。飲み薬で1日1~2回毎日服用します。服用期間は手術後2年~5年(最近では5年が主流になりつつあります)程度が多いですが、患者さんによって異なります。副作用は比較的軽く、無月経、月経異常、ほてり、吐き気、肝機能異常、若干の体重増加などがみられることがあります。また、タモキシフェンでは1000人中1~2人の割合で子宮体がんが発生するリスクがあることが知られています。



■ドレーン(どれーん)■

乳がんの手術でリンパ節郭清を行った後、切除した部分に溜まるリンパ液や血液を排出するための管がわきの下に入れられます。この管をドレーンと言い、排液を貯める小さな弁当箱のようなものがくっついています。回診時にはドレーンから出る排液の量が確認され、廃液の量が少なくなるとドレーンは外されます。リンパ郭清レベルや個人差にもよりますが、手術後5~7日くらいで外されます。



■ハーセプチン (Horceptin)■

ハーセプチン(一般名トラスツヅマブ)は、HER-2(細胞の表面にあたるたんぱく質の一種で、細胞の増殖を促す受容体)が多くある乳がんに用いられる分子標的薬です。日本では2001年6月から健康保険適応で使用できるようになった比較的新しい薬で、進行・再発乳がんに用いられます。HER-2受容体が多い乳がんは、乳がん全体の2割と言われていますが、がん細胞の増殖の速度が速く、転移しやすいという特徴があります。

ハーセプチンの登場により、進行・再発乳がんの治療効果が格段に上がりました。ハーセプチンはHER-2受容体の多さによって効き目が変わります。HER-2受容体が少ししかない場合は殆ど効きませんので、必ずHER-2受容体の数を調べてから使われます。ハーセプチンは、1週間に1回静脈点滴するのが標準的な治療法です。副作用は、抗がん剤に比較して、軽いとされています。










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